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愛媛・四国の河川とダムの役割
〜ダム・河川・インフラで暮らしと命を守る〜
愛媛・四国の暮らしは「ダム + 河川 + 地下水 + ため池」という緻密なネットワークで支えられています。蛇口をひねれば水が出る、大雨でも街が沈まない。その「当たり前」を支えるインフラの現状と未来を解説します。
① 主なダムと役割(生活+防災)
松山市エリア(都市を守る)
■ 石手川ダム(松山市)
- 完成:1973年
- 貯水量:約1,280万㎥
- 説明: 松山市の水道供給の約50%以上(日量約6〜10万トン)を担う、まさに「松山の水の心臓」です。
ダムから浄水場を経て、松山市中心部や道後地区などの主要エリアへ届けられます。
また、治水面では重信川の支流である石手川の上流でダムが踏ん張り、大雨時に毎秒最大350㎥もの流入量を調節することで、市街地を流れる石手川の氾濫を食い止める「盾」の役割も果たしています。
■ 重信川水系(東温市〜松前町)
- 地下水・伏流水を活用
- 説明: 重信川は「カスミ堤」など古くからの治水遺構も残る特徴的な川です。扇状地である松山平野の特性を活かし、水道供給の約40%を深井戸による地下水や伏流水で賄っています。
ダムに100%頼るのではなく、自然のフィルターを通った良質な地下水を活用する「ハイブリッド型」の供給体制をとることで、異常渇水時にも一定の供給量を維持できる強みがあります。
南予エリア(洪水との戦い)
■ 鹿野川ダム(大洲市/肱川)
- 完成:1958年(2019年に再開発完了)
- 貯水量:約5,800万㎥
- 説明: 肱川は「大洲のひじかわ(肘川)」と呼ばれるほど屈曲が激しく、逃げ場を失った水が市街地に溢れやすい全国有数の難所です。
2019年に完了した大規模な再開発事業では、既存のダムに「トンネル洪水吐」を新設。
これにより、従来の約2倍の排水能力を確保し、ダムの貯水位をより柔軟にコントロールすることで、下流の大洲市内の浸水リスクを大幅に低減させています。
■ 野村ダム(西予市)
- 完成:1980年
- 説明: 西予市野村地区の生活・農業を支える多目的ダムです。2018年7月の西日本豪雨では、記録的な豪雨によりダムの限界を超える水が流入し、緊急放流(異常洪水時防災操作)が行われました。
この甚大な被害を教訓に、現在は「事前放流」(雨が降る前にあらかじめダムの水を抜いておく運用)の徹底や、気象予測と連動した最新の操作ルールの策定が進められています。
東予エリア(水質と地下水)
■ 面河(おもご)ダム(久万高原町)
- 仁淀川上流
- 説明: 西日本最高峰の石鎚山を水源とする、日本屈指の水質を誇るダムです。ここで貯められた水は、久万高原町から山を越え、トンネルを通じて松山平野の農業用水や道後温泉エリアなどの生活用水としても活用されています。
標高の高い位置にあるため、その落差を利用した発電も行われています。
■ 西条市のうちぬき(地下水)
- 説明: 西条市は、石鎚山系の広大なブナ林が蓄えた雨水が、地下深くを通って市街地で自噴する「うちぬき」が有名です。
市内のいたるところで名水が湧き出ており、「水の都」と呼ばれます。 この地域では巨大なダム建設に頼りすぎず、地下水という天然のインフラを維持するため、工業用水の適正化や地下水位の常時モニタリングが厳格に行われています。
② 愛媛・四国の主な河川と役割(追加)
| 河川名 | 流域・地域 | 特徴と役割 |
| 重信川 | 東温市・松山市・松前町 | 松山平野の「母なる川」。広大な河川敷は地下水の涵養(蓄え)の場。急勾配なため、大雨時の堤防決壊を防ぐ強化工事が継続されています。 |
| 石手川 | 東温市〜松山市 | 松山市中心部を貫く重要河川。石手川ダムと連携し、河道掘削(川底を掘り下げる)によって都市部での流下能力を高めています。 |
| 肱川 | 西予市・大洲市 | 愛媛最大級の流域。大洲市街地の「畑の前」など浸水しやすい箇所の堤防整備や、遊水地の整備により流域全体で洪水を防ぐ対策が進んでいます。 |
| 中山川 | 西条市 | 周桑平野を潤す農業の命綱。中小河川ながら、地域の浸水被害を直接防ぐための河道改修が地道に行われています。 |
| 加茂川 | 西条市 | 「うちぬき」の源流とも言える川。水質保全が極めて重要で、工業地帯への水供給と自然景観の維持を両立させています。 |
| 吉野川 | 徳島・高知 | 全長194km。「四国三郎」の名に恥じない暴れ川で、早明浦ダムと連携した高度な水位調整が四国経済の鍵を握ります。 |
| 四万十川 | 高知 | 全長196km。大規模ダムを持たないため、沈下橋に象徴される「水をいなす」治水文化と、正確な避難情報の発信が命を守る軸です。 |
| 仁淀川 | 高知・愛媛 | 「仁淀ブルー」で知られる透明度。急峻な地形で土石流リスクがあるため、上流部の砂防ダム(土砂を止めるダム)の役割が非常に大きいです。 |
| 那賀川 | 徳島 | 年間降水量が非常に多い地域を流れます。長安口ダムの再開発など、ハード面での大規模な治水投資が続けられています。 |
| 土器川 | 香川 | 日本で一番面積が小さい県を流れる。渇水に備えつつも、万一の集中豪雨に備えて導水路(水の逃げ道)の確保が行われています。 |
| 香東川 | 香川 | 高松平野を流れる。かつての合流地点の付け替えなど、歴史的な治水努力によって現在の高松市街地が守られています。 |
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③ 水源の課題(リアル)
❶ 老朽化(超重要)
- 現状: 1960年代〜70年代の高度経済成長期に一斉に作られた施設が、現在一斉に寿命を迎えつつあります。
- 具体例: 石手川ダム(約50年)、鹿野川ダム(約65年)。地中の水道管も、法定耐用年数の40年を超えるものが松山市内でも増えており、破裂事故を防ぐための計画的な更新が、建設業の最優先課題です。
❷ 気候変動(雨の降り方が変化)
- 現状: 「これまで経験したことのない」雨。
- 具体例: 2018年の西日本豪雨では、南予地方でわずか数時間に数百ミリの雨が降りました。
一方で、松山市は過去、1994年の「19次取水制限」など深刻な渇水を何度も経験しています。 この「極端なプラス(洪水)」と「極端なマイナス(渇水)」の振れ幅に耐えられる設計への見直しが急務です。
❸ 人口減少
- 将来: 愛媛県は約130万人から将来100万人以下、四国全体でも300万人以下へ減少すると予測されています。
- 説明: 利用者が減ると水道料金収入が減り、ダムや堤防の維持管理費(数億円単位)が捻出しにくくなります。いかに効率よく、少ない予算でインフラを守るかが問われています。
④ 建設業の対応(今やっていること)
- 水道の対応: 古い鉛管や鋳鉄管を、地震の揺れを吸収する「耐震適合性のあるダクタイル鋳鉄管」へ交換しています。また、地中レーダーや音聴調査といったハイテク技術で、道路を掘る前に漏水箇所を特定します。
- ダムの対応: ダムの壁を数メートル高くする「かさ上げ」や、土砂が溜まって貯水量力が減るのを防ぐ「排砂バイパス」の建設など、既存のダムを長持ちさせる工事を行っています。
- 河川の対応: 堤防の裏側を補強して決壊しにくくする「強化堤防」や、ICT建機(自動制御のショベルカー等)を用いた精密な河床掘削が進んでいます。
- 地下水の管理: 西条市などでは、地下水位をリアルタイムで遠隔監視。工業用の取水量をデジタル制御し、地盤沈下や塩害を防いでいます。
⑤ これからの改善(未来)
① スマート水道: IoTセンサーを全戸に設置し、リアルタイムで漏水を検知。水道検針の無人化も進みます。
② コンパクト化: 居住エリアが集約されるのに合わせ、水道網も最適化。メンテナンス範囲を縮小し、一箇所あたりの質を高めます。
③ 広域連携: 例えば愛媛県内でも「松山市と隣接市町」が水道を統合して運用。設備を共有することでコストを削減し、断水時に水を送り合えるようにします。
④ 流域治水への転換: ダムや堤防だけに頼らず、田んぼに水を貯める「田んぼダム」や、公園を下座敷にして一時的に水を貯める仕組みなど、「街全体をダムにする」考え方が普及します。
まとめ
愛媛・四国の水のしくみ
「ダム + 川 + 地下水 + ため池」のバランスで成り立っている。
今の問題
- 50年前のインフラ: 当時の設計想定を超えた豪雨が来ている。
- 人口減少: 維持管理費の確保が難しくなっている。
超重要メッセージ
水が出るのは当たり前じゃない。洪水が起きないのも当たり前じゃない。 その裏には、鹿野川ダムの巨大なトンネルを掘り、松山市内の水道管を一本一本地震に強いものに替え、重信川の堤防を毎日パトロールするなどの建設業の仕事があります。 私たちの「暮らしと命」を支えるこのシステムは、今まさに、最新技術と人の手によって守られています。
